シンガポールの医師

シンガポールでは医師はGP(General Practitioner)と呼ばれる総合診療医とSpecialistと呼ばれる専門医に分かれます。

シンガポールではまず最寄りのGPの診察を受け、「そこで解決しない場合は専門医に紹介してもらうという形を通常とります。もちろん、直接専門医を受診することもできます。

現在シンガポールで認可を受けている日本人医師の多くは、GPとしての登録であり、日系クリニックはGPのクリニックという位置付けになります。

シンガポールの医療機関

シンガポールの医療機関は、private(私立)とrestructuredに分類されます。

後者は日本の独立行政法人みたいなもので、医療機関であっても民間企業として位置づけられ、「ただし、企業主は政府」という仕組みです。逆にいうと、シンガポールには100%公的な医療機関は存在しないのですが、本サイトでは便宜上、restructuredを「公的と意訳して説明します。

医療機関はさらに、日本と同様、病院やセンターのような2次から3次医療を中心に行う施設と、診療所やクリニックのような1次医療(primary care)を行う所に分かれます。

公的医療機関 には、シンガポール国立大学病院(NUH)やシンガポール総合病院(SGH)のような総合的医療施設、国立がんセンター(NCCS)やKKウイメンズ・アンド・チルドレンズ・ホスピタル(KKH)のような専門医療機関などが含まれます。

一方、街中にはNHGP(National Healthcare Group Polyclinic)、通称ポリクリニックと呼ばれるprimary careを担当する診療所があり、そこにはGPが勤務しています。

私立の医療機関としては、街中やショッピングセンターにある開業医(GPも専門医もいます)以外に、ラッフルズ・ホスピタル、マウント・エリザベス・ホスピタルといった大きな病院がいくつかあります。

病院のシステムについて

シンガポールの病院のシステムは、日本のそれと大きく異なります。

日本の総合病院では、病院に医師が所属しています。医師は病院の被雇用者ですから、検査設備や手術室、病室などを共有し、部署同士で設備や物品の使用・借用があっても、そこに支払い関係が発生することはありません。必要であれば異なる専門医同士が連携してチーム医療を行うことも可能です。

また、院内の薬の管理や支払いなどはすべて一括して効率よく処理されます。日本人にはなじみの深いシステムです。
シンガポールでは前述の公的病院と、私立病院の中では唯一ラッフルズ・ホスピタルのみが、上記の日本の病院と類似のシステムをとっています。

一方、マウント・エリザベス・ホスピタルをはじめとした他の大半の私立病院では、オープンシステムと呼ばれる形態をとっています。この場合、そこで働く医師は病院の被雇用者ではありません。

独立した開業医が、その病院の中の外来診療スペースにテナントとして入り、自分のクリニックを構えています。ある意味、医療に特化したデパートメントストアのようなイメージです。

そして、検査や処置、入院の際には病院の設備やスタッフを借りて行います。この時、その開業医から病院に対して使用料・借用料が発生し、最終的にこれらの費用が含まれた医療費を患者が各開業医に支払うことになります。複数の科にかかった場合、同じ病院の中であってもそれぞれの専門医は独立しているので、支払いも処方もそれぞれ別々となります。

診療費について

シンガポール国民の場合、原則、公的医療機関に行けば政府補助金が給付されるので、手頃な価格で医療が受けられるようになっていますが、例えば、「NUHで個室入院を希望する」とか「専門の開業医を受診する」とか「シニアコンサルタントを希望する」となると、国民であっても高額になります。

一般的には公的医療機関の方が私立よりも安価ではありますが、国民と永住者と外国人とではそれぞれ料金が異なります。特に外国人に対しては、完全に自由診療が適応されるため、公的医療機関であっても、決して安くはありませんし、設備やサービスに応じて費用は大きく変わります。

日系クリニックについて

シンガポールおよび近隣諸国に住む日本人および日本人観光客を対象にしたクリニックのことです。
日本人もしくは日本語を話す医師やスタッフが常駐し、診療にあたっています。

これらのクリニックの日本人医師はシンガポール政府よりGPとして診療する許可を得ています。
同様に、政府より医療行為の許可を得た日本人看護婦が勤務しているクリニックもあります。

こうしたクリニックでは日本と完全に同じではないにしろ、言葉の問題を心配することなく、日本の医療のことも考慮されながら診療を受けることができます。外来診療だけでなく、専門医への紹介や健康診断なども行っています。

上記の日本人医師は、GPとしてクリニック内での日本人外来患者に関してのみ診療が許可されています。従って、入院患者の主治医としての医療行為などは今のところできないため、そのような場合は、シンガポールの専門医への入院紹介となります。

シンガポールの医療制度

日本の医療は健康保険制度の上に成り立っています。薬の値段から検査、処置、入院にいたるまで事細かに保険点数という形で料金が決められています。

例えば、同じ処置を初期研修医がしても、ベテランの専門医がしても、料金は変わりませんし、差額ベッド代などを除いてしまえば、病院や医者によって費用が大きく変わることはありません。

一方、シンガポールには日本のような健康保険制度はありません。政府は目安となるガイドラインを提供するだけで、病院が独自に料金を決める自由診療の形をとっています。
従って、病院や医者によって料金は異なります。

例えば、シンガポール人の子供がポリクリニックでGPにかかった場合の初診料に比べて、KKHではその約5倍、開業している小児科専門医では約20倍します。
また、初診料はその医師の経験や資格に裏付けられたポジションによって異なります。

シンガポールのこのようなシステムは、この国において医療が社会保障とサービス(自由診療)の両面を持っていることによります。
さらに、その社会保障というのは、国が全て面倒をみるのではなく、個人責任を持たせるため、国民といえども無料で医療は受けられません。
その代わり、必要最小限には誰もが受けられるような手頃な価格の医療提供を基本姿勢としています。さらに、個人の意思でより付加価値のつく医療サービスを求めるのであれば、そこは市場原理に基づく料金を自費で払う、ということになります。

シンガポール国民と永住者の医療保険事情

シンガポールの医療における社会保障には、政府補助金と3Msというのがあります。
前者は主にポリクリニックや公的病院の外来および5人以上の大人数病室入院の時に使われます。後者はメディセーブ(Medisave)とメディシールドライフ(MediShieldLife)およびメディファンド(Medifund)のことで、メディファンドは最低所得者への医療保障になります。

メディセーブというのは、シンガポール国民と永住者が強制的に加入しなければならないCPF(Central Provident Fund)という年金の一部で、給与から差し引かれ、政府からの利子がついた形で個人貯蓄口座に毎月積み立てられていきます。
これは入院費や予防接種、指定疾患の外来診療に使うことができ、使わなければそのまま資産にできるため、健康を維持しようとする個人責任がさらに徹底されます。

なお、メディシールドライフは、メディセーブだけではカバーしきれないがん治療や透析などの高額医療に備えるのが目的のCPF boardが運営する医療保険です。任意加入ですが、実際には国民の9割以上は加入しています。
また、年々医療費(特に入院や手術など)が高額となり、社会保障だけではまかないきれなくなってきているため、多くのシンガポール人は任意の医療保険に加入するようです。

在星邦人の医療保険事情

シンガポールでは、外国人居住者には公的保険制度は適応されませんから、任意保険に加入して対処する必要があります。

日本から派遣された駐在員の場合は、企業が社員とその家族のために日本の海外旅行傷害保険に加入していることが多いようです。

この保険の場合、基本的に外来診療はカバーされますが、適応にはいくつか条件があり、保険会社や契約内容によって細かい部分は被保険者ごとに異なりますので、企業や保険会社によく確認しておくことをお勧めます。

日系クリニックや日本人がよく受診する病院などでは、病院と保険会社が提携しており、キャッシュレスサービス(患者さんは支払いをすることなく、病院が直接保険会社に医療費を請求するシステム)が受けられます。詳細は保険のしおりや保険会社に確認してください。

日本で発行されたクレジットカードに海外旅行保険が付帯している場合もあります。しかしながら多くの場合、有効期間は出国後3ヶ月程度です。

その他、現地でかかった医療費を日本の健康保険(社会保険の一部で企業を通じて加入)や国民健康保険に請求し、還付を受けることもできます。後者の場合は住民票が残されていることが条件になります。

もちろん、支給が受けられるのはその治療が日本で保険適応になっている医療行為のみであり、支給される金額は、日本で同様の病気や怪我をして健康保険や国民健康保険で治療を受けた場合を基準にして決定されます。
従って、例えば本来自己負担は3割であっても、海外での医療費は日本のそれに比べて高い傾向があるので、実際にはかかった費用の3割以上を支払うことが多いです。
また、提出用の書類を作成する必要があります。詳しいことは企業や自治体の担当部署に確認してください。

それ以外にも、日本やシンガポールで加入した生命保険や入院保険も、契約の規定に当てはまれば現地での医療費に使用可能です。
保険会社によっては保険が使える病院が指定されていることもあり、種々の条件を予め調べておくことをお勧めします。

緊急時について

緊急時は、restructured hospitalまたは私立病院のA&E(Accident and Emergency)で対応してくれます。事前に連絡をする必要はありません。

公用の救急車は995で呼ぶことができますが、通常、時間がかかることが多いので、状況にもよりますが、タクシーで直接行ってしまった方が早いです。
基本的に公用の救急車は無料ですが、「軽症なのに救急車を使った」と判断されてしまった場合は搬送費用が請求されます。
もちろん、交通事故などの本当に緊急性の高い重症ケースでは、995を呼んでください。

通常は、一番近いrestructured hospitalまたは救急搬送受付私立病院に運ばれます。
KKHのようなrestructured hospitalのA&Eは非常に混んでいますが、トリアージナースが入り口のところにいて緊急性が高い場合は優先されるようになっています。

傷病の程度にもよりますが、どうしたら良いか分からない場合は、まずは日系クリニックに相談してみてください。

薬について

シンガポールの薬は輸入製品が多いです。そのため、国全体の薬の在庫は流通の問題と直結しているので、日本のように国産の薬がある国に比べると供給はやや不安定です。

日本製の薬も一部輸入されています。日本で使用されている薬が全て手に入るわけではありませんが、ほとんどの薬は見た目が違うだけだったり、成分は同じで量や濃度が異なるだけだったり、代用できる類似薬があったりで、困ることはほぼありません。代用薬すら存在しない場合は、政府に申請して輸入することもできます。

よく、「海外の薬は日本に比べて強いというような話を聞きますが、それは、薬用量が日本の基準に比べると多いことによるようです。
シンガポールは人口が少ないため、この国独自の研究データは十分に集められず、欧米のデータを基にして薬用量を設定していることが多いです。

また、薬も上述したように欧米の製品をそのまま輸入していることが多く、例えば年齢で容量が決まるような薬では、欧米人と東洋人の体格の違いは考慮されていませんので、結果的に用量が多めになってしまいます。

一方、日本における薬用量は日本人のデータに基づいて決められているので、同じ成分の薬でも欧米に比べると少なめの用量設定になっています。
さらにその量に合わせた日本独自の小さな薬が作られることが多いため、大きさから見ても、海外の薬が「強く」見えてしまう可能性はあります。
日系クリニックでは現地事情も考慮した上で、基本的には日本のガイドラインに沿った処方が受けられます。

なお、日本では小児の飲み薬の多くは粉薬で、体重当たりで計算された量が精密に袋に分けられていますが(分包)、シンガポールではほとんどがシロップ剤になります。
シロップ剤がどうしても飲めない子やシロップ剤が存在しないような薬の場合、大人が飲む錠剤を割ったり、水に溶かして相当量を飲んだりすることもあります。


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情報提供:ラッフルズジャパニーズクリニック